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あなぐまくんとはなぐまくん
B5サイズ×9点
高知麻紙、水干、膠、墨
ある村にふたりのくまがおりました。
ひとりは穴の中に家を建てて住んでいるのであなぐまくん、
もうひとりは鼻が長いのであなぐまくん、と呼ばれていました。
ふたりは幼いころからの友達でした。
あなぐまくんの一族には、大人になると自分ひとりで家を建てるしきたりがあります。しかし、あなぐまくんは大人になっても両親の建てた家で暮らしていました。
「このままじゃダメだ!」
家を出る決心をしたあなぐまくんは、旅の支度をするとはなぐまくんの家に向かいました。
あなぐまくんは言いました。
「はなぐまくん、さようなら。ぼくは家を建てるためにこの村を出ることにしたんだ」
はなぐまくんはびっくり。
「どうして!?家ならこの村に建てればいいじゃないか!」
「いいや、ぼくはこの村にいたら、きみや村の人を頼ってしまうだろう。
きっと、どこか素敵な場所をみつけて、立派な家を建て戻ってくるよ!」
別れ際、はなぐまくんは言いました。
「あなぐまくん、さようならー!どうか素敵な家を建てておくれー!
だけど、辛くなったときはいつでも帰ってこいよー!」
はなぐまくんの声に、あなぐまくんは帽子を振ってこたえました。
村を出たあなぐまくんは街へと歩き出しました。
「ぼくが都会に家を建てたら、村のみんなはびっくりするぞ」
都会についたあなぐまくんは驚きました。
「なんて大きな建物だろう!」
「なんてたくさんの人だろう!」
「なんて都会はすごいんだろう!ぼくはここに家を建てるぞ」
しかし、頼る人もなく、見たことのないものばかりの都会で過ごすうち、日ごとに心細さがつのってゆきました。
故郷の景色や友達が懐かしくてたまらなかったのです。
寂しい毎日を送るあなぐまくん。
「辛くなったら帰っておいで」というはなぐまくんの言葉を思い出しました。
「はなぐまくん、ぼく、村に帰ってもいいよね…?」
こうして、あなぐまくんは村へと向かうことにしました。
不思議なことに、村が近づくにつれてどんどん人の数が増えてゆきます。
やがて、人々は行列を作ってゆきました。
「これはどうしたことだろう?」
すると、並んでいた人が教えてくれました。
「この先に素敵な服屋さんがあるんだ。鼻が長い店長さんなんだよ」
「なんだって!!」
行列の先には、服屋の店先にいるはなぐまくんの姿がありました。
お店の中にはたくさんたくさん、お客さんがいます。
服を売るはなぐまくんも、お客さんも実に楽しそうです。
働くはなぐまくんを見たあなぐまくんは、つぶやきました。
「…そうだった。ぼくは家を建てるために村をでたんだった」
村の外へと続く道を引き返しながら、あなぐまくんは言いました。
「はなぐまくん、待っていておくれ!
ぼくは素敵な家を建てて、1番最初にきみを招待するからね!」
おしまい。
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